最低制限価格の係数は本当にランダムなのか?非公表自治体の入札結果を分析する方法
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福島県公共営繕積算|全国版・建築電気工事編
最低制限価格の係数が非公表の自治体、それは本当にランダムなのか?建築・電気工事の入札結果から検証する方法
自治体の中には、最低制限価格の算定式の骨格(中央公契連モデル式など)は公表していても、実際に使用する係数までは公表していないところがあります。この場合、「今回の案件の最低制限価格は何%か」を事前に正確に計算することはできません。しかし、公表されている入札結果を継続的に収集すれば、係数に規則性があるのかどうか、あるとすれば何が影響しているのかを検証することは可能です。本記事では、そのために何を収集し、どう分析すればよいのかを整理します。
係数非公表の自治体に入札する建築・電気工事業者の方
最低制限価格の算定式は公表されているが係数が非公表の自治体で、積算の危険水域を見極めたい方に。
積算・見積り担当の方
「最低制限価格を当てる」のではなく「危険な案件を判断する」視点を持ちたい方に。
Excelで仮説検証したい方
入札結果を条件別に分類し、平均・中央値・下位落札率を比較したい方に。
目次
最低制限価格の実額は分からない
自治体によっては、最低制限価格の算定式として中央公契連モデル式(直接工事費×0.97、共通仮設費×0.90、現場管理費×0.90、一般管理費×0.68の合計を工事価格の87%〜92%の範囲に収める、という形が一般的です)に「一定係数」を乗じて算出すると定めているところがあります。この場合、モデル式の骨格や上下限(87〜92%など)は公表されていても、実際に乗じる係数の具体的な数値・数式までは公表資料に記載されていないことがあります。
ここでまず理解しておきたいのは、「最低制限価格の実額を推定すること」と「運用傾向を分析すること」は別の問題だということです。実額は非公表なので、「今回は91.34%だった」と断定することはできません。一方で、「小規模工事は92%付近が多い」「電気工事は建築工事より低い傾向がある」「長工期案件は下限が高い」といった傾向分析は可能です。
積算実務で本当に重要なのは、最低制限価格を1円単位で当てることではなく、どのような条件で失格リスクが高まるのかを把握することです。この視点の転換が、非公表という制約の中で分析を進めるための出発点になります。
収集すべきデータ
分析の土台として、まずExcelに次の項目を1案件1行で整理します。
Excelに整理する項目
- 工事名
- 工種(建築・電気など)
- 新築・改修・解体の別
- 施設種別(学校・庁舎・福祉施設・スポーツ施設など)
- 予定価格
- 契約金額
- 落札率(契約金額÷予定価格)
- 工期
- 入札参加者数
- 落札順位(2位以下の入札額が分かる場合)
- 同額入札の有無
- 失格者の有無・失格者の入札額
- 発注課
- 発注年度
最低限必要なのは「予定価格」「契約金額」「工種」の3つです。施設種別・参加者数・落札順位・同額入札の有無といった項目は、その場では使わなくても、後から条件を組み合わせて分類し直す際に効いてきます。集められるときに集めておくと、後の分析の幅が大きく広がります。
分析の考え方
最低制限価格が非公表の場合、多くの人は「最低制限価格を計算したい」と考えます。しかし実務上、それは必ずしも最優先の目的にはなりません。
このように、算定式の骨格は公表されていても係数が非公表の場合、最低制限価格は案件ごとに変動する可能性があります。もし係数が価格帯で変わる、工種で変わる、発注課で変わるのであれば、1つの係数を求めようとする分析そのものが的外れになります。
そこでまず確認すべきなのは、「本当に同じルールで運用されているのか」という点です。この記事で紹介する分析は、最低制限価格を直接求めるためのものではありません。係数に規則性があるのか、あるとすれば何が影響しているのかを探るための分析です。この前提を踏まえたうえで、次の仮説0以降を読み進めてください。
仮説0:本当にランダム係数なのか
入札参加者の多くは「係数は完全なランダム値」と考えがちです。しかし、非公表であることと、完全にランダムであることは同じではありません。工事価格・工種・工期・発注課などの条件に応じて、一定のルールで変化している可能性もあります。
もしそうであれば、条件ごとに分類して比較することで傾向を捉えられる可能性があります。逆に、どの切り口で分析しても規則性が見つからない場合は、そこで初めて「実質的にランダムに近い運用がされている」という仮説が有力になります。
つまり、この記事全体を通じた分析の目的は、係数の値そのものを当てることではなく、係数に規則性が存在するかどうかを検証することだと言い換えられます。以下の仮説1〜6は、この仮説0を検証するための具体的な切り口です。
仮説1:予定価格によって運用が変わるのではないか
最初に確認したいのは価格規模による違いです。300万円の電気工事、2,000万円の改修工事、1億円の新築工事を同じ集団として平均を取っても、傾向は見えてきません。まず価格帯ごとに区分します。
価格帯の区分例
- 500万円未満
- 500万〜2,000万円
- 2,000万〜5,000万円
- 5,000万円以上
各グループごとに、平均落札率・中央値・最低落札率・失格率を集計します。価格帯によって明確な差が出るのであれば、係数が価格帯に応じて変化している可能性があります。逆にどの価格帯でも似たような結果であれば、価格規模とは無関係の運用になっている可能性が高いと考えられます。
仮説2:建築と電気で傾向が違うのではないか
実務ではここを一緒に集計してしまうケースが多いですが、建築工事と電気工事は分けて分析するべきです。参加する会社数、積算精度、利益率、市場競争の状況が工種によって異なるためです。
| 工種 | 平均(仮の例) | 中央値(仮の例) |
|---|---|---|
| 建築工事 | 95.2% | 96.0% |
| 電気工事 | 92.6% | 92.0% |
※上表の数値は説明のための仮の例であり、実際の集計値ではありません。
このような差が継続して現れる場合、最低制限価格そのものの水準差というより、工種による競争環境の差が存在している可能性が考えられます。分析する際は、建築・電気・機械を必ず分離して集計することがポイントです。
仮説3:工期によって違うのではないか
見落とされやすいのが工期です。同じ5,000万円の工事でも、工期3か月と工期12か月ではリスクの性質が異なります。長期工事ほど、労務単価や資材価格の変動、工程遅延といったリスクが増えます。
工期の区分例
- 3か月未満
- 3〜6か月
- 6か月以上
もし長工期案件で極端に低い落札率がほとんど見られないなら、発注者側または市場参加者側が、工期の長さに応じて安全側に価格を寄せている可能性があると考えられます。
仮説4:発注者や年度によって違うのではないか
制度上は同じ算定式・同じ運用ルールだったとしても、実際の運用には発注課ごとの違いが生じることがあります。教育施設を扱う課、庁舎管理を扱う課、福祉施設を扱う課、スポーツ施設を扱う課など、発注課ごとに案件を分けて集計すると、「この課の案件は落札率が高い傾向がある」といった発見につながる可能性があります。
あわせて、年度による変化も確認します。落札率は資材高騰、人手不足、地域の受注状況といった市場環境の影響も受けるため、単年度だけのデータで結論を出すと、制度的な要因と市場的な要因を取り違えるおそれがあります。令和4年度・令和5年度・令和6年度・令和7年度のように年度別に分けて比較し、複数年度にわたって同じ傾向が続くようであれば制度要因、単年度だけの傾向であれば市場要因の可能性が高いと判断します。
発注課別・年度別のいずれも、データ数がある程度集まった段階で加えると、価格帯・工種だけでは見えない傾向を拾える場合があります。
仮説5:失格案件から範囲を絞る
失格になった入札者の具体的な入札額が公表資料に記載されている案件は、最も価値の高いデータになります。失格案件がある場合、次の関係が成り立ちます。
例えば、失格者の落札率が89.82%、落札者の落札率が90.01%だった場合(いずれも説明のための仮の例です)、最低制限価格は「89.82%超、90.01%以下」の範囲に存在することになります。この1件だけでも、範囲を0.19ポイントまで絞り込めたことになります。
これを何十件も蓄積していくと、価格帯・工種ごとの最低制限価格のおおよその水準が、かなり狭い範囲まで見えてくる可能性があります。他の仮説(価格帯・工種・工期・発注課・年度)と組み合わせることで、条件ごとの推定範囲がより具体的になっていきます。
仮説6:複数のルールが混在しているのではないか
ここまでの分析では、価格帯・工種・工期・発注課・年度をそれぞれ個別に見てきました。しかし実際には、「価格帯だけで決まる」「工種だけで決まる」とは限りません。例えば「建築工事かつ5,000万円以上」と「電気工事かつ500万円未満」では、まったく別の傾向が現れる可能性があります。
つまり、価格帯と工種、工種と工期、発注課と年度など、複数の条件が組み合わさって初めて規則性が現れる場合があります。実際の分析では、「建築工事全体」「電気工事全体」という単純な集計だけで終わらせず、「建築×価格帯」「電気×価格帯」「建築×工期」のようなクロス集計も行うと有効です。
単独の切り口では規則性が見つからなくても、条件を組み合わせることで初めて傾向が見えてくることがあります。この仮説6は、仮説0で立てた「規則性の有無を検証する」というゴールに、最も直接つながる検証です。
分析手順の具体例
ここまでの仮説を、実際にどの順番で確認すればよいのか、手順の一例を示します。
分析手順の例
- 予定価格を「1,000万円未満」「1,000万〜3,000万円」「3,000万〜5,000万円」「5,000万円以上」など複数の区分で分類し、各区分の落札率の中央値を比較する。差がほとんど出なければ、価格帯と最低制限価格の関係は薄いと判断する。
- 次に、建築工事と電気工事を分けて中央値を比較する。差が出れば工種要因が強い、差が出なければ工種要因は弱いと判断する。
- 工期を「3か月未満」「3〜6か月」「6か月以上」に分け、下限側の落札率(低い方から数えて1〜2割の位置の値)を比較する。長工期側で下限が高ければ、工期リスクが考慮されている可能性がある。
- 発注課別・年度別に同じ集計を行い、単独の切り口で差が出なかった場合は、工種×価格帯などの組み合わせ(クロス集計)で再確認する。
- 失格案件があれば、失格額と落札額の差が小さい案件から優先的に記録し、価格帯・工種ごとの推定範囲を絞り込んでいく。
この手順を通して「差が出た切り口」と「差が出なかった切り口」を両方記録しておくことが重要です。差が出なかった切り口も、「その条件は最低制限価格に影響していない」という一つの発見だからです。
最終的に目指すべきもの
最低制限価格が非公表の自治体を分析するとき、多くの人は「最低制限価格を計算したい」と考えます。しかし実際には、最低制限価格そのものを求めるより、何が最低制限価格に影響しているのかを探る方が実務的な価値は高いと考えられます。
分析の目的は、たった1つの答えを見つけることではありません。価格帯・工種・工期・発注課・年度・失格案件、そしてそれらの組み合わせという複数の切り口から仮説を立て、それを検証していくプロセスそのものに価値があります。積算担当者が本当に知りたいのは、「どの価格帯が危険か」「どの工種が厳しいか」「どの案件が失格になりやすいか」であり、これは1件の案件を深掘りするよりも、50件・100件とデータを蓄積し、条件別・組み合わせ別に比較する方が圧倒的に見えやすくなります。
係数非公表の自治体の最低制限価格分析は、まずは係数を当てにいくのではなく、「価格帯・工種・工期によって傾向が変わるのか」を確認するところから始めるのが現実的な進め方だと考えられます。
この記事のポイント
- 非公表=ランダムとは限らない。まず「規則性があるか」を検証する
- 検証項目:予定価格帯/工種/工期/発注課/年度/失格案件(単独+組み合わせ)
- 比較する指標:平均落札率/中央値/最低落札率/失格率
- 目的は「実額を当てる」ことではなく「危険な案件を判断できる」こと
まとめ
最低制限価格の算定式の骨格は公表していても、最終的な係数までは公表していない自治体があります。その場合、個別案件の最低制限価格を正確に算出することはできません。しかし、予定価格帯・建築や電気などの工種・工期・発注課・発注年度・失格案件という複数の視点で入札結果を分析することで、運用傾向を読み解くことは可能です。重要なのは、「最低制限価格は何%か」を追うことではなく、「どの条件で失格リスクが高まるのか」を理解することです。そのためには単発の案件ではなく、継続的なデータ蓄積と仮説検証が欠かせません。
参考:中央公共工事契約制度運用連絡協議会(中央公契連)モデル方式に基づく最低制限価格の算定形式(直接工事費・共通仮設費・現場管理費・一般管理費への係数乗算、上下限設定)は、複数の自治体で採用例が見られる一般的な形式です。個別自治体の運用は、各自治体の公表資料でご確認ください。

