全体スライド条項・インフレスライド条項とは?

公共工事の入札に参加する際、積算とは発注者側の予定価格の考え方を積算基準どおりに再現・推定する作業であり、自社の施工費を計算する見積りとは目的が異なります。とはいえ、契約後に賃金や物価が変動した場合の代金変更ルールを知っておくことは、工事費の見通しを立てるうえで欠かせません。今回は「全体スライド条項」と「インフレスライド条項」について、福島県工事請負契約約款の条文をもとに整理します。

結論
福島県工事請負契約約款第26条には、賃金・物価変動に対応する条項が複数まとめられています。第1項〜第4項が「全体スライド条項」で、契約締結から12か月経過後に請求でき、変動額が残工事代金額の1,000分の15(1.5%)を超える部分が対象です。第6項が「インフレスライド条項」で、急激なインフレ・デフレにより代金が著しく不適当となった場合に、前各項の規定にかかわらず請求できる条項です。なお第5項は特定資材の価格変動に対応する単品スライド条項で、これら3つは対象範囲の異なる別々の条項です。

全体スライドとインフレスライド、何が違うのか

福島県工事請負契約約款第26条は、賃金又は物価の変動に基づく請負代金額の変更について、第1項から第6項までをまとめて規定しています。このうち第1項〜第4項が一般に「全体スライド条項」、第6項が「インフレスライド条項」と呼ばれ、第5項は「単品スライド条項」です。3つとも根拠条文は同じ第26条ですが、発動の考え方が異なります。

全体スライド条項(第26条第1項〜第4項)

条文によると、発注者又は受注者は「工期内で請負契約締結の日から12月を経過した後」に、賃金水準又は物価水準の変動により請負代金額が不適当となったと認めたときは、相手方に代金変更を請求できます(第1項)。請求があった場合、変動前後の残工事代金額の差額のうち、変動前残工事代金額の「1,000分の15を超える額」について、代金変更に応じなければなりません(第2項)。基準日は請求のあった日とし、協議開始から14日以内に協議が整わないときは発注者が定めます(第3項)。また、一度変更を行った後も、直前の変更基準日を新たな起点として再度請求することができます(第4項)。

ポイント:全体スライドは「契約後12か月経過」という期間要件と、「1,000分の15超」という数値要件がセットで条文に明記されている点が特徴です。

インフレスライド条項(第26条第6項)

第6項は「予期することのできない特別の事情により、工期内に日本国内において急激なインフレーション又はデフレーションを生じ、請負代金額が著しく不適当となったとき」に、発注者又は受注者が「前各項の規定にかかわらず」代金変更を請求できると定めています。つまり、全体スライド条項のような「12か月経過」という期間要件を待たずに請求できる余地がある点が、実務上の大きな違いです。福島県のホームページでも、令和6年度・7年度の福島県工事請負契約約款第26条第6項に基づく協議状況が公表されており、現在も有効な条項であることが確認できます。

注意:全体スライドの「1,000分の15」のような具体的な変動率の基準は、第6項の条文そのものには明記されていません。「著しく不適当」かどうかは個別の協議によって判断される仕組みです。

単品スライド条項との位置づけの違い

単品スライド条項(第26条第5項)は、鋼材類や燃料油など特定の主要資材の価格が著しく変動した場合に、全体スライドの規定に加えて請求できる条項です。これに対しインフレスライドは、特定資材に限らず工事全体の物価水準が急激に変動した場合の条項であり、対象範囲が資材単位か工事全体かという点で単品スライドとも性格が異なります。

一次資料で確認できなかった点:インフレスライド条項の増減額の具体的な計算式や受注者負担率について、福島県の現行の運用通知等は本記事執筆時点で一次資料として確認できませんでした。断定的な数値は記載せず、条文で確認できる範囲にとどめています。

積算・入札実務で押さえておきたいポイント

予定価格を推定する立場から見ると、全体スライド・インフレスライド・単品スライドは、いずれも契約後の代金変更に関わる条項であり、当初の予定価格そのものの積算方法を直接変えるものではありません。ただし、長期契約や資材価格が不安定な時期の工事を積算する際は、こうした条項の存在を踏まえて工事費の変動リスクを見込んでおくことが実務上重要です。条文上の要件(期間・変動率の有無)を区別して理解しておくと、発注者側の予定価格の考え方をより正確に推定する助けになります。

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