防衛省の工事に最低制限価格はない|低入札価格調査制度との違いを解説

このようなお悩みはありませんか。

  • 防衛省の工事入札で、極端に安い業者が落札しているのを見たことがある
  • 福島県や市町村の入札には「最低制限価格」があるのに、国の工事にはないのか疑問に思っている
  • 防衛省の入札で価格の下限がどうなっているのか、制度の根拠を知りたい

この記事を読むと、次のことがわかります。

  • 国(防衛省を含む)に最低制限価格制度が存在しない法的根拠
  • 代わりに使われている低入札価格調査制度の仕組みと、最低制限価格との決定的な違い
  • 防衛省の調査基準価格の具体的な算定式(直接工事費97%・共通仮設費90%・現場管理費90%・一般管理費68%)

結論:国には最低制限価格制度がない

結論

防衛省を含む国の機関には、最低制限価格制度がありません。
会計法・予算決算及び会計令(予決令)のどこにも、「一定額を下回った入札を自動的に失格にする」規定が存在しないためです。

国が使えるのは低入札価格調査制度のみです。調査基準価格を下回っても「調査」が行われるだけで、履行可能と認められればそのまま落札になります。自動失格にはなりません。

福島県や県内市町村の入札に慣れている方にとっては、「最低制限価格を下回ったら失格」が当たり前かもしれません。しかしこれは地方自治法施行令の規定に基づく制度であり、国の機関には適用されません。

そのため、防衛省の工事入札では「結局、一番安い業者が落札する」ということが制度上起こりやすい構造になっています。

最低制限価格と低入札価格調査の違い(かんたん比較)

まず、2つの制度の違いを表で確認します。

比較項目 最低制限価格制度
(福島県・市町村)
低入札価格調査制度
(防衛省・国の機関)
根拠法令 地方自治法施行令
第167条の10 第2項
会計法 第29条の6第1項ただし書
予決令 第85条・第86条
使える主体 地方公共団体のみ 国の機関(+地方公共団体も可)
基準を下回ったら 自動失格(即アウト) 調査 → 履行可能なら落札OK
判断の余地 なし(機械的に排除) あり(調査結果による)
実務上の影響 一定以上の価格が保証される 安い札が通りやすい

ここが決定的な違い

最低制限価格制度は「下回ったら問答無用で失格」です。一方、低入札価格調査制度は「下回ったら調査するが、問題なければ落札させる」です。
つまり、低入札価格調査には価格による自動排除の機能がありません。調査で「不適切」と判断するには明確な根拠が必要で、価格が低いだけでは排除できません。

防衛省の入札で安い業者が落札しやすいのは、個別の運用の問題ではなく、制度の構造そのものに由来しているということです。


ここからは詳しく知りたい方向けの内容です
法令の条文・防衛省の調査基準価格の算定式・エビデンスへのリンクを掲載しています

なぜ国には最低制限価格がないのか(法令の構造)

この違いは、国と地方公共団体でそもそも適用される法律が異なることに起因します。

国の入札:会計法第29条の6第1項

会計法 第29条の6 第1項(要旨)

契約担当官等は、競争に付する場合においては、予定価格の制限の範囲内で最低の価格をもって申込みをした者を契約の相手方とするものとする。

ただし、最低の価格の申込者について当該契約の内容に適合した履行がされないおそれがあると認められるとき、又は公正な取引の秩序を乱すこととなるおそれがあって著しく不適当であると認められるときは、その他の者のうち最低の価格の者を契約の相手方とすることができる。

ポイントは2つです。

  • 原則:最低価格の者が落札する(=安い者が勝つ)
  • 例外:「履行されないおそれ」がある場合に限り、次順位の者を選べる(=調査して判断する)

この条文に「最低制限価格を設け、それを下回った者を落札者としない」という規定は一切含まれていません。つまり、会計法には最低制限価格の制度を設ける法的根拠そのものが存在しません。

低入札価格調査の仕組み:予決令第85条・第86条

会計法のただし書きを受けて、予算決算及び会計令(予決令)が調査の仕組みを定めています。

予決令 第85条(要旨)

各省各庁の長は、契約の内容に適合した履行がされないおそれがあると認められる場合の基準を定めるものとする。

予決令 第86条 第1項(要旨)

契約担当官等は、最低価格の申込者の申込みに係る価格が第85条の基準に該当するときは、その者により当該契約の内容に適合した履行がされるかどうかについて調査しなければならない。

このように、予決令の規定も「調査しなければならない」であり、「落札者としない」(=失格)ではありません。調査の結果、履行可能と認められれば、その者が落札者となります。

地方公共団体の入札:地方自治法施行令第167条の10

一方、地方公共団体の入札には、国にはない規定があります。

地方自治法施行令 第167条の10(構成)

第1項:低入札価格調査制度(国の予決令85条・86条に相当)
→ 調査基準価格を設け、下回った場合は調査する

第2項:最低制限価格制度
→ 最低制限価格を設け、下回った場合は落札者としない(自動失格)

国との決定的な違い

地方自治法施行令第167条の10の「第2項」に相当する規定が、会計法・予決令には存在しません。
これが「国には最低制限価格制度がない」法的根拠です。

制度 国の法令 地方の法令
低入札価格調査 予決令 第85条・第86条 地自令 第167条の10 第1項
最低制限価格 規定なし 地自令 第167条の10 第2項

防衛省の低入札価格調査基準の具体的な中身

防衛省は予決令第85条に基づき、工事における低入札価格調査基準を通達で定めています。

根拠通達

「工事等に係る防衛省所管契約事務取扱細則第25条第1項に規定する基準の運用について(通知)」
防整施第15573号(平成27年10月1日)
最終改正:防整建第24297号(令和6年10月25日)

適用対象:予定価格が1,000万円を超える工事等の入札及び契約

調査基準価格の算定式

予定価格算出の基礎となった次の額の合計に消費税等相当額を加算し、予定価格で除した割合を調査基準価格とします。

費目 乗じる率
直接工事費 97%(10分の9.7)
共通仮設費 90%(10分の9)
現場管理費 90%(10分の9)
一般管理費等 68%(10分の6.8)

上限・下限

上記で算出した割合が予定価格の92%(10分の9.2)を超える場合は92%、75%(10分の7.5)に満たない場合は75%とします。

ただし、繰り返しになりますが、この基準を下回っても「調査」であり、自動失格ではありません。

改正の経緯

改正時期 変更内容
令和元年7月1日公告分〜 上限・下限を 70〜90% → 75〜92% に引上げ
令和4年4月1日公告分〜 一般管理費等の率を 55% → 68% に引上げ

一般管理費の率68%は、国土交通省の中央公契連モデルの改正に合わせたものです。福島県や県内市町村の最低制限価格算定式でも、同じ68%が使われています。

特別重点調査

調査基準価格を下回った入札のうち、さらに各費目が以下の水準に満たない場合は、特別重点調査の対象になります。

直接工事費 共通仮設費 現場管理費 一般管理費等
75% 70% 70% 30%

特別重点調査では、品質確保体制等が確保されないおそれがないかを厳格に調査します。ただし、特別重点調査であっても法的には自動失格ではありません。あくまで「調査が厳しくなる」というだけです。

建築工事・設備工事の特例

建築工事及び設備工事においては、調査基準価格の算定にあたり、直接工事費の一部を現場管理費として扱うこととされています。

これは公共建築工事の積算基準では、直接工事費(複合単価)の中に現場管理費相当分が含まれているためです。国土交通省の営繕工事でも同様の取扱いがあります。

注意

「現場管理費相当額」の具体的な率は、通達本文では「整備計画局建設制度官が定める」とされており、公表資料からは具体的な率を確認できていません。

まとめ

この記事のまとめ

  • 国(防衛省含む)に最低制限価格制度はない。 会計法・予決令に最低制限価格を設ける規定が存在しないため
  • 国が使えるのは低入札価格調査制度のみ。 調査基準価格を下回っても調査が入るだけで、自動失格にはならない
  • 最低制限価格制度は地方自治法施行令第167条の10第2項にのみ規定されている、地方公共団体だけの制度
  • 防衛省の調査基準価格は直接工事費97%・共通仮設費90%・現場管理費90%・一般管理費68%で算出(上限92%・下限75%)
  • 制度の構造上、防衛省の工事では安い入札が通りやすい

福島県や県内市町村の入札では最低制限価格によるセーフティネットがありますが、防衛省をはじめとする国の機関にはその仕組みがありません。国の工事に入札する際は、この制度の違いを理解しておくことが重要です。

エビデンス・参考資料リンク

積算の疑問は「積算よろず相談箱」へ【全国対応】

積算の疑問を匿名で質問できます。基本コラムで回答を発信しますが、必要な場合はメールでご返信いたします。なお電話対応は行っておりません。

積算よろず相談箱はこちら